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【援護法Q&A 3】日本では、過去の戦争被害の補償についてどのようになされていますか。

 Q3. 日本では、過去の戦争被害の補償についてどのようになされていますか。

特異な日本の補償制度

日本の戦争被害者の補償制度の特徴は、欧州諸国では、後述のように人権や国民の被害の平等負担という観点から行われたのに対し、日本では、明治憲法的な「お国のため」という視点で貴かれているということにあります。

すなわち、まず、国籍により外国人が排除され、日本国民についても国家の「臣民」の被害は「受忍させる」ことを原則とし、ただ「お国のため」に死んだ人たちだけは援護しようというものです。

他方で、戦闘に参加していない戦争被害者でも、その後の社会的支援を含む運動により、ある程度の援護がなされた例がありますが、内容や給付面で大きく制限されたものとなっています。それでも、空襲被害者は、一貫して補償の埒外に置かれてきました。

軍人・軍属等

<軍人>

軍人には、恩給法(1953年改正により復活)に基づいて、本人とその遣族に対する給付が行われています。一定年限以上勤務した軍人には普通恩給が支給されますが、恩給の金額は、原則として階級に応じた仮定俸給年額(兵145万円~大将833万)に応じて計算支給されます。さらに、在職年数に応じた最低保障額が定められ、障害の程度に従って増加恩給や傷病年金が給付されています。

遺族に対しでも補償があり、普通恩給受給者の遺族へは年金型の普通扶助料が支給され、また、戦没者の遺族へは公務扶助料が支給されていますが、これについても軍の階級による差があり、毎年最低補償額1,966,800円から、平均300万~400万円位支給され、受給権は孫にまで及んでいます。

旧軍人の本人や遺族に対する援護や慰給支給額は、平成23年現在で総額約50兆円に及んでいます。

<軍人(恩給法の適用を受けない)・軍属・準軍属>

戦傷病者戦没者遺族等援護法(1952年制定)に基づき、障害者本人には障害の程度に応じて障害年金を、死亡者の遺族には遺族年金・遺族給与金及び弔慰金を支給するよう規定されており、軍人と同趣旨の給付が行われています。

準軍属は、軍人や軍属の身分がなかった人々であり、国家総動員法で徴用された人や、防空従事者等がありますが、そこでの共通基準は、戦闘への参加です。沖縄戦の被災者に戦闘参加を基礎に適用されていますが、そのことによる矛盾が起きています。


その他の戦争被害者

<原爆被爆者>

一定の範囲で、放射線の影響を受けたと認められ、「被爆者健康手帳」の受付を受けた者に対しては、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づいて、医療保険の自己負担分を国費で補填などの援護施策が実施されています。

手帳所持者で、原爆症の認定を受けた者には医療特別手当(月額137,430円)が、また、一定の疾病にかかっている者には健康管理手当(月額33,800円) が、その他一定の要件を満たした者には、保健手当、特別手当、原子爆弾小頭症手当、介護手当、家族介護手当が支給されています。

しかし、これらの給付の対象は原子爆弾の放射能に起因する健康被害に限定されており、給付の内容も原則的に、医療分野に限定されていることや、遺族に対する給付がないことなどの問題点が指摘されています。

<シベリア抑留者>

軍人軍属としての年金を受給する権利を有しない者のうち、戦後、|日ソ連またはモンゴル地域において強制抑留された者(戦後強制抑留者)またはその遺族には、1988年に制定された独立行政法人平和祈念事業特別基金等に関する法律の規定により、10万円(遺族については死亡者1人につき10万円)の慰労金と慰労品(銀杯〉が支給されました。しかし、戦傷病者戦没者遺族等援護法の適用を受ける人たちに比較して、著しく低額となっています。

<中国残留孤児>

「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律」による援護(一時帰国、永住帰国、定着・自立援護)がされていましたが、中国残留孤児訴訟を受けて、2008年から同法の改正により、新たな支援策が始まりました。

一つは、老齢基礎年金の満額支給です。帰国前の公的年金に加入できなかった期間だけでなく、帰国後の期間についても追納を認めていることです。追納に必要な額は国が負担します。

もう一つは、老齢基礎年金を補完する支援給付です。上記の年金で生活が出来ない場合、月額にして約8万円が支給されます。

金額から明らかなとおり、ささやかな補償にとどまっています。


財産上の損害

欧州諸国の戦後補償制度との比較において、日本では、引き揚げ者に対するものを除いて、財産上の損害に対する補償立法が存在しないことにも注意しておく必要があります。

【旧軍人の仮定俸給年額】

階 級金額(円)
大 将8,334,600
中 将7,434,600
少 将6,291,400
大 佐5,503,100
中 佐5,170,100
少 佐4,126,700
大 尉3,432,600
(3,735,700)
中 尉2,735,200
(2,988,000)
少 尉2,392,800
(2,646,800)
准士官2,161,000
(2,392,800)
下士官曹長又は上等兵曹1,759,800
軍曹又は一等兵曹1,651,000
伍長又は二等兵曹1,599,400
1,457,600

(注)
准士官から大尉までの( )内の金額は、1945年11月30日以前の旧軍人としての実在職年の年数が最短恩給年限以上であり、かつ、下士官としての階級を有していた旧海軍の軍人について適用されている仮定俸給年額です。
仮定俸給年額は、2001年度以降同額です。

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